【社労士の視点】なぜ精神障害者手帳(発達障害)の更新は2年なのか?「永久認定」を求める声の背景

現在、精神障害者保健福祉手帳の有効期間は原則2年間と定められています。この頻繁な更新手続きは、当事者や家族、そして支援機関にとって大きな負担となっています。

特に「発達障害」を抱える人々から、「治癒という概念がない障害に対し、なぜ更新が必要なのか」「いっそ永久認定にすべきではないか」という提言がなされています。この問題について、制度の現状と課題を解説します。

目次

1. 2年更新がもたらす「更新の壁」

精神障害者保健福祉手帳の2年ごとの更新制度は、主に以下の問題を引き起こしています。

継続的な時間・費用・心理的負担

手帳を更新するためには、再び医師に診断書を依頼する必要があります。この診断書作成にかかる費用(数千円〜1万円程度)と、医療機関への依頼、役所への提出という一連の作業が2年ごとに繰り返されます。

病状が不安定な方にとって、この手続き自体が大きな心理的ストレス(負担)となることが少なくありません。

等級変動のリスクと不安

2年間の間に症状が「改善傾向にある」と医師に判断された場合、等級が下がったり、最悪の場合は手帳の非該当となったりするリスクがあります。これにより、これまで受けていた支援(税制優遇、交通費割引、就労サポートなど)が突然失われることへの不安がつきまといます。

2. 発達障害と「治癒」の概念のずれ

ご指摘の通り、発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)は、先天的な脳の機能の特性によるものであり、医学的に見て「完治(治癒)」という概念が存在しません。

これは、風邪のように原因を取り除けば治る「疾病」とは異なり、生涯にわたって付き合っていく「特性」だからです。

特性の固定性 vs 制度の柔軟性

  • 障害の特性: 診断が確定した発達障害は、その特性が根本的に治癒することは、「誤診」が判明した場合を除いてありえません。
  • 制度の現状: しかし、精神障害者保健福祉手帳は、統合失調症やうつ病など、症状が大きく変動する精神疾患と一律で扱われています。

症状が変動する精神疾患においては、2年ごとに状況を確認し、適切な等級(支援レベル)に調整する必要性があります。しかし、特性が固定的な発達障害にこのルールを適用することは、当事者にとって「不必要な審査」として映ってしまいます。

3. 制度緩和に向けた提言:5年更新と永久認定の必要性

こうした背景から、制度の柔軟化と合理化が強く求められています。

提言1:更新期間の「5年化」の導入

まず、当事者の負担を大きく軽減するため、更新期間を現在の2年から5年へ延長すべきです。

これは、同じく障害福祉を支える「障害年金」の再認定期間(1年、2年、3年、5年、7年、永久など)を参考に、精神障害においても症状の固定性に応じて判断期間を設けるべきです。

提言2:発達障害に対する「永久認定」の実現

治癒の可能性が極めて低い、または症状が固定化していると診断された発達障害や一部の精神疾患(例:高次脳機能障害など)については、再認定の必要がない「永久認定(無期限)」を適用すべきです。

特に、発達障害の診断は幼少期や学童期に確定することが多く、成人に達して特性が固定化していると判断できるケースでは、不必要な再診断を避け、そのリソースを他の必要な支援に充てるべきです。

4. まとめ:必要なのは「当事者の負担軽減」と「合理的配慮」

障害者手帳制度の目的は、当事者の生活の安定と社会参加の促進です。不必要な更新手続きは、当事者を疲弊させ、支援から遠ざけてしまう結果になりかねません。

「治らない特性」を抱える人々に対し、その特性を認める診断書を2年ごとに求めることは、制度の趣旨と実態の間に大きなズレを生じさせています。

今後の福祉制度においては、障害の種類や特性に応じて更新期間を柔軟化し、「永久認定」の範囲を拡大することが、当事者に対する真の「合理的配慮」となるでしょう。

執筆者情報
氏名(社労士名):野口幸哉
所属:東京・埼玉精神疾患障害年金ネット
資格:社会保険労務士
専門領域:障害年金、精神疾患に関するサポート業務
実務経験:10年以上、申請代行800件以上
プロフィールページはこちら → https://lin.ee/N7Xm2sR

監修
監修者:野口幸哉(社会保険労務士)
※本記事は専門家による内容確認(ファクトチェック)を経て公開しています。

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