社労士コラム:障害年金2級と失業給付の同時受給は不正受給になるのか?精神疾患の“状態変動”と制度の矛盾について解説

障害年金2級と失業給付は“働けない・働ける”という前提が異なるため、同時受給に不安を感じる人が多い制度です。本コラムでは、制度の前提の違い、精神疾患の状態変動、そして不正受給と判断されない理由を整理します。

目次

1. 制度の前提が“真逆”であることの理解

まず、障害年金と失業給付(基本手当)は、それぞれ目的と前提が根本的に異なります。

制度前提としている「働く能力」制度の目的
障害年金2級労働による収入が困難なレベル(日常生活にも著しい制限)障害による生活困難への長期的保障
失業給付働く意思があり、週20時間以上働ける能力がある職を失うことで収入源が途絶えた労働者が、失業中の生活を心配することなく過ごせるようにするため(短期的

つまり、この「制度前提の真逆」こそが、書類上の矛盾を生む原因です。

  • 障害年金2級⇨働けない前提
  • 失業給付⇨ 働ける前提

基本手当と障害年金の関係
障害等級のガイドライン

2. 精神疾患は「状態が変わる」のが前提

しかし、ここで最も重要なのは、精神疾患特有の“変動性”です。

精神疾患の多くは、以下のような病状の波(変動)が当然のように存在します。

  • 数日単位で働ける日があるが、その週の中で寝込む日も続く。
  • 躁状態で急に活動的になったり、抑うつ状態で全く動けなくなったりする。

3 不正受給にはならない理由

同じ月の中で「働けない日」と「働ける日」が混在すること自体は、病気の性質として自然なことです。

  • 障害年金の診断書の現症日の日付:症状が重い時期
  • その数週間後:一時的に回復し、就労意欲が上がったため、医師に「就労の能力があると記載された診断書」を持ってハローワークへ行った

このように日付が異なるだけで「不正受給」になることはありません。病状の変動は、医学的にも現場的にも十分起こり得る流れです。

まとめ

精神疾患のある人が「働ける日」と「働けない日」を行き来するのは、ごく普通のことです。

このため、障害年金の現症日の記載と失業給付の申請日が多少前後していても、そのズレだけで不正受給と判断されることはまずありません。

手続き上の誤解を防ぐための注意点

ただし、“誤解を生まないようにするため”に気をつけるべきポイントは次の2点です。

1. 病状が日によって変動することを説明すること

精神疾患は、その日の体調や環境で働ける状態が大きく上下します。

診察時の様子と、ハローワークに行けた日の状態が違うのは当然であり制度上も矛盾にはなりません。

2. ハローワークで健康状態や障害に関する情報を正しく伝えているか

失業給付の手続きでは、聞き取りや認定の場面で、職員から健康状態・働ける範囲・必要な配慮について確認されます。この流れの中で、障害年金を申請しているかどうかを尋ねられることも珍しくありません。

ここで事実を正しく伝えておけば、手続き上の矛盾や誤解を避けることができます。

同一日に申請した場合のリスク

★ もし「同じ日付」で障害年金の診断書・申請と、ハローワークでの求職申し込みを行っていた場合は、話がまったく変わります。

  • 障害年金では「働けない」と証明
  • 失業給付では「働ける」と申告

これが同日に記録されていると、

“状態の変動”では説明できない矛盾として扱われる可能性が高いのが現実です。

執筆者情報
氏名(社労士名):野口幸哉
所属:東京・埼玉精神疾患障害年金ネット
資格:社会保険労務士
専門領域:障害年金、精神疾患に関するサポート業務
実務経験:10年以上、申請代行800件以上
プロフィールページはこちら → https://lin.ee/N7Xm2sR

監修
監修者:野口幸哉(社会保険労務士)
※本記事は専門家による内容確認(ファクトチェック)を経て公開しています。

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