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「社会的治癒」とは、障害年金の審査において、病気が「一旦治った」とみなすための特別な考え方です。
医学的には完全に治っていなくても、長期間、仕事や日常生活に支障なく復帰していた実績があれば、年金制度上はそこで病状が固定された、つまり「治癒した」と判断します。
この判断基準が複雑で曖昧なため、社会保険労務士(社労士)の専門的な知識が不可欠です。
この概念が認められるかどうかで、再発した時の年金を受け取れるか、または受け取れる金額が大きく変わるため、非常に重要なポイントとなります。
障害年金制度における「治癒」は、医学的に症状が完全に消失した状態だけでなく「医学的治癒」と「社会的治癒」の2つの側面から捉えられます。
それは、もし病気が再発して障害年金を請求する際、「過去の病気と切り離し、新しい病気として扱ってもらう」ためのカギとなるからです。
つまり、社会的治癒とは、再発した人が年金をより有利な条件で受け取るための、制度上の「救済措置」のようなものだと理解してください。
社会的治癒の判断は、具体的な法律で記載されている訳ではないので、日本年金機構の内部文書や過去の裁決事例などに基づき、総合的に行われます。
具体的には以下の3つの要素がすべて揃っていると社会的自由が認められやすくなると考えております。
| 要素 | 具体的な内容 | 実務上のチェックポイント |
| A. 症状の安定 | 相当期間、自覚的・他覚的症状が消失・軽減し、安定した状態にあること。 | 社会的治癒期間の前後のカルテ、診断書から、投薬量の減少や治療の終了を確認し、症状が安定(寛解)状態へ移行し、それが維持されていたことを立証する。社会的治癒期間中の受診(経過観察等)の記録があれば、その安定した所見を重要視する。 |
| B. 治療をしていない期間の継続性 | 長期間、医療を行う必要がなく、実施されていないこと(経過観察や予防的投薬は許容される場合あり)。 | 投薬や治療が中断または軽微なものになっていた期間が概ね5年以上継続しているか。 |
| C. 社会生活への復帰 | 相当期間、通常の社会生活または労働に従事できる状態にあること。 | 最も重要。職場復帰後の就労状況(フルタイム、昇進など)、日常生活動作(ADL)、対人関係、家事能力などを客観的に証明できるか。 |
社労士の独自視点: 形式的な治療の中断期間(一般的に5年程度が目安とされることが多い)だけでなく、その期間における「社会的な活動の質と量」をどれだけ具体的に証明できるかが、成功の鍵となります。例えば、「正社員として〇年間勤務し、管理職に昇進した」「毎年、賞与をもらっていた。」「結婚し、家事・育児を支障なく行っていた」「自己研鑽のために資格を獲った」などの具体的な事実は、強力な証拠となります。
【実務上の知見】 さらに、当職の経験上、中断前の症状が比較的軽度であったこと(例:統合失調症などの精神病ではなく、適応障害や神経症などでの通院)や、中断前の通院期間・回数が極めて短かったことは、審査側が社会的治癒を認める際の心理的ハードルを下げ、手続きがスムーズに進みやすい傾向にあると考えます。これは、初期の病状が軽微であればあるほど、「再発」ではなく「新たな発症」として捉えやすくなるためだと思います。
「5年」は絶対的な基準ではありません。 これは裁決事例や審査における一つの目安とされている期間です。
社労士の実務感覚としては、精神疾患であれば一般的に5年程度の治療中断・安定期間が求められることが多いですが、傷病の種類や個別の事案により異なります。例えば、軽度の服薬のみが継続している場合でも、その他の社会的活動が充実している(フルタイム勤務、社会貢献活動など)ことが客観的に証明できれば、5年未満でも認められる可能性はあります。
認められやすくなりますが、必ずしもそうとは限りません。
フルタイム勤務は「社会的治癒」の主要な証明要素として強力ですが、裏付けとなる医学的側面が伴わなければなりません。例えば、フルタイムで働いていても、仕事以外の生活すべてが破綻しているような状態であれば、「通常の社会生活」を送っているとは評価されず、治癒とは認められない場合があります。勤務実績だけでなく、日常生活全般(ADL)の客観的な証拠も集めることが重要です。
社会的治癒は、請求者の人生の再スタートを年金制度の中で位置づけるための重要な概念です。
ご自身の事案で社会的治癒の可能性があるとお考えの場合は、複雑な判断が伴うため、専門知識を持つ社会保険労務士にご相談いただくことを強くお勧めします。