「社会的治癒」について

「社会的治癒」について

「社会的治癒」とは、障害年金の審査において、病気が「一旦治った」とみなすための特別な考え方です。

医学的には完全に治っていなくても、長期間、仕事や日常生活に支障なく復帰していた実績があれば、年金制度上はそこで病状が固定された、つまり「治癒した」と判断します。

この判断基準が複雑で曖昧なため、社会保険労務士(社労士)の専門的な知識が不可欠です。

この概念が認められるかどうかで、再発した時の年金を受け取れるか、または受け取れる金額が大きく変わるため、非常に重要なポイントとなります。

目次

1. 社会的治癒とは何か?

基本的な概念

障害年金制度における「治癒」は、医学的に症状が完全に消失した状態だけでなく「医学的治癒」「社会的治癒」の2つの側面から捉えられます。

  • 医学的治癒: 傷病が治癒または症状が固定し、治療の必要がなくなった状態。
  • 社会的治癒: 医学的には病気が完治していなくても、症状が落ち着いて治療や投薬の必要がない状態が一定期間続いた場合に、「その病気は治癒したものとみなす」という社会保険(主に障害年金)上の考え方

なぜ「社会的治癒」が重要なのでしょうか?

それは、もし病気が再発して障害年金を請求する際、「過去の病気と切り離し、新しい病気として扱ってもらう」ためのカギとなるからです。

  • 初診日のリセット: 社会的治癒が認められた場合、以前の病気の初診日ではなく、再発して病院に行った日を「新しい初診日」として扱うことができます。
  • 遡及請求の可能性の確保 (重要!): 古い初診日では、カルテの保管期間が過ぎて診断書が取れず、遡及請求を諦めていた方でも、新しい初診日を基準にすれば直近のカルテで証明が可能になり、過去の年金をまとめて受け取る遡及請求の道が開けます。
  • 年金受給資格の確保: この「初診日のリセット」によって、古い初診日を基準にした場合に保険料の納付要件を満たせず受給資格を失ってしまう人でも、新しい初診日を基準にすれば、年金を受け取れる可能性が生まれます。
  • 年金額の増額・種類: また、新しい初診日が会社員(厚生年金)の加入期間中であれば、もらえる年金額が増えたり、対象となる障害等級(3級など)が広がったりする大きなメリットがあります。

つまり、社会的治癒とは、再発した人が年金をより有利な条件で受け取るための、制度上の「救済措置」のようなものだと理解してください。

2. 社会的治癒の認定について

社会的治癒の判断は、具体的な法律で記載されている訳ではないので、日本年金機構の内部文書や過去の裁決事例などに基づき、総合的に行われます。

具体的には以下の3つの要素がすべて揃っていると社会的自由が認められやすくなると考えております。

要素具体的な内容実務上のチェックポイント
A. 症状の安定相当期間、自覚的・他覚的症状が消失・軽減し、安定した状態にあること。社会的治癒期間の前後のカルテ、診断書から、投薬量の減少や治療の終了を確認し、症状が安定(寛解)状態へ移行し、それが維持されていたことを立証する。社会的治癒期間中の受診(経過観察等)の記録があれば、その安定した所見を重要視する。
B. 治療をしていない期間の継続性長期間、医療を行う必要がなく、実施されていないこと(経過観察や予防的投薬は許容される場合あり)。投薬や治療が中断または軽微なものになっていた期間が概ね5年以上継続しているか。
C. 社会生活への復帰相当期間、通常の社会生活または労働に従事できる状態にあること。最も重要。職場復帰後の就労状況(フルタイム、昇進など)、日常生活動作(ADL)、対人関係、家事能力などを客観的に証明できるか。

社労士の独自視点: 形式的な治療の中断期間(一般的に5年程度が目安とされることが多い)だけでなく、その期間における「社会的な活動の質と量」をどれだけ具体的に証明できるかが、成功の鍵となります。例えば、「正社員として〇年間勤務し、管理職に昇進した」「毎年、賞与をもらっていた。」「結婚し、家事・育児を支障なく行っていた」「自己研鑽のために資格を獲った」などの具体的な事実は、強力な証拠となります。

【実務上の知見】 さらに、当職の経験上、中断前の症状が比較的軽度であったこと(例:統合失調症などの精神病ではなく、適応障害や神経症などでの通院)や、中断前の通院期間・回数が極めて短かったことは、審査側が社会的治癒を認める際の心理的ハードルを下げ、手続きがスムーズに進みやすい傾向にあると考えます。これは、初期の病状が軽微であればあるほど、「再発」ではなく「新たな発症」として捉えやすくなるためだと思います。

3.よくある質問

治療中断期間はどれくらい必要ですか?「5年」は絶対ですか?

「5年」は絶対的な基準ではありません。 これは裁決事例や審査における一つの目安とされている期間です。

社労士の実務感覚としては、精神疾患であれば一般的に5年程度の治療中断・安定期間が求められることが多いですが、傷病の種類や個別の事案により異なります。例えば、軽度の服薬のみが継続している場合でも、その他の社会的活動が充実している(フルタイム勤務、社会貢献活動など)ことが客観的に証明できれば、5年未満でも認められる可能性はあります。

症状が残っていても、フルタイムで働いていたら社会的治癒と認められますか?

認められやすくなりますが、必ずしもそうとは限りません。

フルタイム勤務は「社会的治癒」の主要な証明要素として強力ですが、裏付けとなる医学的側面が伴わなければなりません。例えば、フルタイムで働いていても、仕事以外の生活すべてが破綻しているような状態であれば、「通常の社会生活」を送っているとは評価されず、治癒とは認められない場合があります。勤務実績だけでなく、日常生活全般(ADL)の客観的な証拠も集めることが重要です。

 まとめ

社会的治癒は、請求者の人生の再スタートを年金制度の中で位置づけるための重要な概念です。

ご自身の事案で社会的治癒の可能性があるとお考えの場合は、複雑な判断が伴うため、専門知識を持つ社会保険労務士にご相談いただくことを強くお勧めします。

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