障害者手帳について

「障害者手帳」の全メリットと「年金証書」を使った申請手続きガイド

病気や怪我によって生活に支障がある場合、その負担を軽減するために用意されているのが「障害者手帳」です。

しかし、「申請が面倒」「メリットがよく分からない」といった理由で取得をためらっている方も少なくありません。

特に、すでに障害年金を受給されている方にとっては、「診断書なし(無料)」で手帳を取得できる方法を知らないと、損をしてしまう可能性があります。

目次

1. 障害年金受給者が障害者手帳を取得するには:診断書なしでの手帳取得

通常、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の申請には、医師が作成する「所定の診断書」が必要です。これには通常、5,000円〜10,000円程度の文書料がかかります。

しかし、「精神障害」を事由とする障害年金を受給している方に限り、診断書の代わりに「年金証書」の写しを提出することで申請が可能です。

なぜ可能なのか?

障害年金の審査(日本年金機構)と、精神障害者保健福祉手帳の審査(自治体)は、等級判定のガイドラインがほぼ共通しています。「国(年金機構)がすでに障害の状態を認めているのだから、自治体もそれをそのまま認めましょう」という合理的な仕組みです。

この方法の3つのメリット

  1. 経済的負担ゼロ:高額な診断書代がかかりません。
  2. 心理的・時間的負担の軽減:医師に依頼し、完成を待つストレスがありません。
  3. 等級の確実性:原則として、年金の等級がそのまま手帳の等級になります。
障害年金の等級手帳の等級備考
1級1級最も重い等級。手厚い支援対象
2級2級日常生活に著しい制限がある状態。
3級3級労働や日常生活に制限がある状態。

【注意】
この「年金証書による申請」が使えるのは、「精神障害者保健福祉手帳」のみです。身体障害者手帳や療育手帳にはこの制度はありませんのでご注意ください。

2. 障害者手帳を持つことのメリット

手帳を取得する最大の意義は、「経済的な支出を減らし、生活の質を守る」ことにあります。メリットは多岐にわたります。

① 税金の減免(手取り収入が増える)

手帳を持っているだけで、本人またはその扶養者の税金が安くなります。

  • 所得税・住民税の障害者控除
    • 3級・2級(普通障害者):所得税27万円、住民税26万円の控除
    • 1級(特別障害者):所得税40万円、住民税30万円の控除
    • 同居している家族の税金も安くなる場合があります。
  • 自動車税・軽自動車税の減免
    • 障害の等級や自治体の条例によりますが、全額または半額免除されるケースが多く、年間数万円の節約になります(※精神障害の場合は1級が対象となることが多いです)。
  • 贈与税・相続税の特例
    • 特定障害者に対する贈与税の非課税措置などがあります。

② 交通費・公共料金の割引

移動や通信にかかる固定費を削減できます。

  • JR・鉄道運賃の割引
    • 身体・知的障害:以前から割引あり。
    • 精神障害(重要ニュース): これまで一部の私鉄に限られていましたが、2025年(令和7年)4月1日から、精神障害者保健福祉手帳(1級〜3級)をお持ちの方もJRグループなどの運賃割引が導入されることになりました
      詳細はこちら
  • タクシー券の交付・割引
    • 自治体によりますが、タクシー料金の10%割引や、年間数万円分の利用券が配布されることがあります。
  • NHK放送受信料の免除
    • 「世帯全員が住民税非課税」かつ「家族の誰かが手帳を持っている」場合、全額免除となります。
  • 携帯電話料金の割引
    • 大手キャリア各社には障害者向けの割引プランがあります。
  • 上下水道料金の減免
    • 自治体によっては基本料金が免除される場合があります。

③ 就労面でのメリット

「働くこと」に関する選択肢が広がります。

  • 障害者雇用枠での就職
    • 一般枠に比べて、通院への配慮や業務内容の調整が得られやすい求人に応募できます。
  • 就労移行支援事業所の利用
    • 就職に向けたスキルアップやトレーニングを受けられる施設の利用がスムーズになります。
  • 失業保険(雇用保険)の優遇
    • 離職した際、「就職困難者」として認定されると、失業給付を受けられる日数が通常より長く(例:90日→300日など)設定されることがあります。

④ レジャー・余暇の割引

社会参加を促すため、多くの施設で割引が受けられます。

  • 映画館:多くの映画館で本人と付添人1名が1,000円程度で鑑賞できます。
  • 美術館・博物館・動物園:公立の施設は無料、民間でも割引になることが多いです。
  • テーマパーク:ディズニーリゾートやUSJなどでも、並ぶ負担を軽減するサポートサービスを利用できる場合があります。

3. 手帳申請の手順(年金証書を使う場合)

実際に市役所の窓口に行く際の具体的な流れです。

  1. 必要書類を揃える
    • 年金証書(または年金決定通知書)の原本
    • 直近の年金振込通知書(または支払通知書)
    • 証明写真(縦4cm×横3cm)
    • マイナンバー確認書類
    • 身分証明書(免許証など)
    • 印鑑
  2. 市区町村の障害福祉窓口へ行く
    • 窓口で「障害年金を受給しているので、その証書を使って精神障害者保健福祉手帳を作りたい」と伝えてください。
    • その場で「交付申請書」を記入します。
  3. 手帳の交付
    • 申請から約1〜2ヶ月程度で手帳ができあがります(自治体から通知が届きます)。

4. よくある質問と誤解

社会保険労務士として、よく相談される不安にお答えします。

手帳を持つと、会社や近所にバレますか?

バレません。

手帳を持っている情報は高度なプライバシー情報であり、自分から言わない限り、会社や近隣住民に知られることはありません。手帳を取得しても、それを会社に報告する義務はありません(ただし、障害者控除を受けるために年末調整で申告すれば経理担当者には分かる可能性は発生します)。

障害年金が止まったら、手帳も返さないといけませんか?

必ずしもそうではありません。

年金と手帳は連動して申請できますが、制度としては別物です。もし年金が停止になっても、手帳の更新時期(2年ごと)に改めて医師の診断書を提出し、該当すると判断されれば手帳は持ち続けられます。

社会保険労務士からのアドバイス

「障害者手帳」という言葉の響きに抵抗感を持つ方も少なくありません。ですが、手帳はあなたという人間を定義するものではなく、「今の生活の負担を少しでも減らし、より生きやすくするための『便利なツール(道具)』」に過ぎません。

特に障害年金を受給されている方は、追加の費用負担なしで、税金の減免や将来のJR割引といった大きな権利を手に入れることができます。

まずは手帳を取得し、引き出しの中にしまっておくだけでも構いません。「いざという時に使えるカード」として持っておくことを強くおすすめします。

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