自立支援医療について

医療費が「1割負担」になる公的制度の仕組みと適用範囲

心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公的制度が「自立支援医療」です。

通常の健康保険(3割負担)に加え、この制度を利用することで窓口負担が原則1割になります。さらに、所得や病状に応じて月額上限額が設定されるため、長期的な治療が必要な方にとって極めて重要なセーフティネットとなります。

この記事では、制度の対象者、自己負担の仕組み、申請のポイントまでを網羅的に解説します。

目次

1. 自立支援医療は「3つの種類」に分かれる

「自立支援医療」は総称であり、対象となる障害や年齢によって以下の3種類に分類されます。

種類対象者・内容具体例
① 精神通院医療精神疾患(てんかんを含む)があり、通院による継続的な治療が必要な方。※入院医療は対象外です。統合失調症、うつ病、躁うつ病、てんかん、発達障害、認知症など。
② 更生医療身体障害者手帳を持つ18歳以上の方で、手術等により障害の除去・軽減が見込める場合。人工透析(腎臓機能障害)、心臓ペースメーカー埋込術、人工関節置換術、角膜移植術など。
③ 育成医療身体に障害がある児童(18歳未満)で、手術等により障害の除去・軽減が見込める場合。※手帳の有無は問いません。口唇口蓋裂の形成術、先天性心疾患の手術、四肢の機能障害に対する手術など。

注記: 最も利用者数が多いのは「① 精神通院医療」です。以下、共通事項を含め解説します。

2. 経済的メリット:負担割合と月額上限額

この制度の最大のメリットは、医療費の負担軽減です。

基本ルール:窓口負担は「1割」

通常、健康保険等の自己負担は3割(現役世代)ですが、自立支援医療受給者証を提示すると、指定の医療機関・薬局での支払いが1割になります。

さらに重要なルール:「月額自己負担上限額」

世帯の所得状況や病状(重度かつ継続)に応じて、1ヶ月あたりの支払い上限額が設定されます。上限に達した時点で、その月の支払いはそれ以上発生しません。

【自己負担上限額の一覧表】

ここでの「世帯」とは、住民票上の世帯ではなく、「同じ健康保険に加入している家族」を指します。

世帯の所得区分(市民税の課税状況)通常の方の上限額「重度かつ継続」の方の上限額
生活保護0円0円
低所得1(世帯全員が非課税・本人収入80万円以下等)2,500円2,500円
低所得2(世帯全員が非課税・低所得1以外)5,000円5,000円
中間所得1(課税世帯・所得割3万3千円未満)医療費の1割※15,000円
中間所得2(課税世帯・所得割3万3千円以上23万5千円未満)医療費の1割※110,000円
一定所得以上(所得割23万5千円以上)対象外(3割負担)20,000円 ※2

※1: 医療保険の「高額療養費制度」の限度額が適用されますが、実質的には1割負担です。

※2: 「重度かつ継続」に該当する場合のみ、特例として制度の対象となり、上限2万円が設定されます(本来は対象外の所得層です)。

3. 重要キーワード:「重度かつ継続」とは?

上記の表にある通り、「重度かつ継続」の範囲に認定されると、中間所得層以上でも負担上限額が低く抑えられます。

以下のいずれかに該当する場合に認定されます。

  1. 特定の疾病・症状であること:
    • 統合失調症、躁うつ病(双極性障害)、てんかん、認知症、高次脳機能障害など。
    • 腎臓機能障害(人工透析)、小腸機能障害、免疫機能障害(HIV)など。
    • 集中的・継続的な医療を要する状態として医師が認めたもの。
  2. 高額な医療費が継続していること:
    • 申請前の12ヶ月以内に、高額療養費の支給を3回以上受けている場合。

4. 利用上の注意点(指定医療機関制度)

自立支援医療は、どの病院でも使えるわけではありません。

  • 指定自立支援医療機関:
  • 都道府県知事等が指定した病院、診療所、薬局、訪問看護ステーションでのみ利用可能です。
  • 事前の登録が必要:
  • 受給者証には、利用する医療機関名・薬局名が記載されます。原則として、そこに記載された医療機関で受けた医療のみが給付の対象です。
  • (※病院を変更する場合は、事前に変更届の提出が必要です)

5. 申請手続きの流れ

申請窓口は、お住まいの市区町村の障害福祉課(名称は自治体による)です。

必要書類

  1. 自立支援医療支給認定申請書(窓口にあります)
  2. 医師の診断書(自立支援医療用の様式)
    • 精神障害者保健福祉手帳と同時に申請する場合、手帳用の診断書1枚で兼ねることができます。
  3. 健康保険証(世帯確認のため)
  4. 世帯の所得が確認できる書類(課税証明書など。マイナンバー連携で省略できる場合あり)
  5. マイナンバー確認書類・本人確認書類

有効期間と更新

  • 有効期間: 原則として1年間です。
  • 更新手続き: 有効期限の3ヶ月前から手続き可能です。
    • 更新を忘れると資格を喪失し、再申請までの期間は3割負担に戻ってしまうため、注意が必要です。
    • 治療方針に変更がなければ、診断書の提出は「2年に1回」で済む場合があります(自治体や病状による)。

6. よくある誤解とQ&A

風邪や怪我で受診した時も1割になりますか?

なりません。

自立支援医療は、申請した「対象となる障害(精神疾患や身体障害)」の治療や投薬に限られます。風邪薬や、関係のない怪我の治療は通常の3割負担です。

入院費も安くなりますか?(精神通院医療の場合)

なりません。

「精神通院医療」はその名の通り「通院」のみが対象です。精神科であっても、入院費や入院時の食事代は対象外です(これらは高額療養費制度などでカバーします)。

過去に支払った医療費は戻ってきますか?

原則として戻りません。

申請受理日以降の医療費が対象となります。診断がついたら、できるだけ速やかに申請することが重要です。

まとめ

精神科に通院されている方で、まだこの制度を利用していない場合は、主治医や病院のソーシャルワーカー、または市役所の窓口へ相談することを強くお勧めします。

特に、「現在は3割負担だが、通院費が家計を圧迫している」という場合、この制度を利用することで月々の支払いが数千円(あるいは0円)に固定され、安心して治療を継続できる環境が整います。

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