AIが「労働」を奪うとき、障害年金は「ベーシックインカム」へと進化するのか

「AIに仕事を奪われる」 この言葉を聞いて、多くの社会保険労務士は「自分の専門業務(書類作成など)が自動化されること」を想像します。

しかし、AIの進化が私たちの想像を遥かに超えるスピードで進んだとしたらどうでしょうか。 それは単に「事務作業がなくなる」というレベルの話ではありません。

「人間が働く必要のない世界(あるいは働けない世界)」が到来する可能性があるのです。

その時、私たち障害年金専門の社労士、そして「障害年金」という制度そのものはどうなってしまうのでしょうか。少し未来の視点から考察してみます。

目次

「ホワイトカラー消滅」の先にある世界

現在、生成AIは驚異的なスピードで進化しています。遠くない未来、高度な推論能力を持つAGI(汎用人工知能)が登場すれば、事務職、専門職、クリエイティブ職を含む、ほぼすべてのホワイトカラー業務はAIに代替されるでしょう。

人間よりも遥かに安価で、正確で、24時間働き続ける知能が存在する社会。そこでは、一部の資本家やAI所有者を除き、「労働によって対価を得る」という資本主義の根本ルールが崩壊します。

人間は、好むと好まざるとにかかわらず、「働く必要がない(働いてもAIに勝てない)」状態になります。

「労働不能」を補償する制度の矛盾

ここで、現在の「障害年金制度」を見つめ直してみましょう。 障害年金は、原則として「障害によって日常生活や労働に制限があること」を要件に支給されます。つまり、裏を返せば「働いて自立することが難しいから、国が補償する」という、「労働」を前提としたセーフティネットなのです。

しかし、AIによって「健常者であっても仕事がない(働く必要がない)」社会になったとしたら?

「障害があるから働けない」という概念と、「AIがやるから人間は働かなくていい」という概念の境界線は消失します。 

誰もが働かない社会において、「労働能力の喪失」を基準とする障害年金制度は、その存在意義を保てなくなるのです。

障害年金から「ベーシックインカム」へ

そこで浮上するのが、「ベーシックインカム(Basic Income)」への移行というシナリオです。

【ベーシックインカムとは】 政府がすべての国民に対して、年齢・性別・所得・就労の有無に関わらず、無条件で、生活に必要な最低限の現金を定期的に給付する制度のこと。「最低生活保障」とも呼ばれます。

労働が富の分配手段として機能しなくなった世界では、人々が生きていくために、このベーシックインカムの導入が不可欠になります。

もしベーシックインカムが導入され、国民全員に毎月十分な生活費が配られるようになれば、煩雑な審査を経て支給される「障害年金」や「生活保護」といった既存の制度は、ベーシックインカムに一本化(吸収)される可能性が高いでしょう。

 障害年金社労士がいなくなる日、それは「理想の社会」の完成

もし、ベーシックインカムが実現し、誰もが経済的な不安なく生きられる世界が来たとしたら、「障害年金の申請代行」という業務は完全に消滅します。診断書の内容に一喜一憂することも、申立書の作成に頭を悩ませることもなくなります。すべての人が、審査なしで無条件に救われるからです。

これは、私たち社労士にとって「失業」を意味します。 しかし、私はそれで良いと思っています。いや、むしろ「障害年金専門の社労士なんていらない世の中」になることこそが、私たちが目指すべき理想のゴールなのかもしれません。

今の私たちは、複雑で高いハードルがある制度だからこそ、必死に依頼者様をサポートしています。ですが、そもそもハードルがなくなり、誰もが当たり前に守られるなら、私たちの出番などない方が良いのです。

「じゃあ、その理想の世界で、あなたは何の仕事をしているの?」 そう聞かれたら、正直なところ、今はまだ分かりません。

もしかすると、もう「社会保険労務士」という肩書きすら名乗っていないかもしれません。

けれど、これだけは確信しています。 たとえお金の心配が消え、AIが社会システムを完璧に回すようになったとしても、人間が生きている限り、「困っている人」がいなくなることはないということです。

制度の狭間で泣く人がいなくなれば、また別の場所で、孤独や生きがいの喪失に苦しむ人が必ず現れます。それは、どれだけAIが進化しても解決できない、人の心の問題かもしれません。

執筆者情報
氏名(社労士名):野口幸哉
所属:東京・埼玉精神疾患障害年金ネット
資格:社会保険労務士
専門領域:障害年金、精神疾患に関するサポート業務
実務経験:10年以上、申請代行800件以上
プロフィールページはこちら → https://lin.ee/N7Xm2sR

監修
監修者:野口幸哉(社会保険労務士)
※本記事は専門家による内容確認(ファクトチェック)を経て公開しています。

目次