障害年金の時効とは|原則5年の支分権と制度上の注意点

障害年金の時効について

障害年金には、過去の未請求分について時効が定められています。本ページでは、原則5年とされる支分権の考え方を中心に、時効が成立した場合の取り扱いや遡及請求との関係について、制度の基本を整理して解説します。

目次

1. 障害年金における「時効」

年金の時効を正しく理解するためには、「基本権」と「支分権」という2つの概念を分ける必要があります。

① 基本権(受給権)の時効

「年金をもらう権利そのもの」のことです。

  • 法律上の規定: 権利が発生してから5年で時効(国民年金法第102条等)。
  • 実務上の運用: 障害年金において、国はこの基本権の時効を原則として援用(主張)しません。 つまり、障害状態になってから10年、20年経って初めて申請しても、要件を満たしていれば「受給権」そのものは認められます。

② 支分権(各月の年金)の時効

「毎月(各期)の年金を受け取る権利」のことです。

  • 法律上の規定: 支払期日の翌月の初日から5年で時効。
  • 実務上の運用: こちらは厳格に適用されます。 申請が遅れた場合、直近5年分より前の年金は、時効によって1円も受け取ることができません。

2. 遡及請求(さかのぼり)と5年の壁

障害年金の申請には、大きく分けて「認定日請求(遡及請求)」と「事後重症請求」があります。時効が特に問題になるのは遡及請求です。

遡及請求の仕組み

「障害認定日(初診日から1年6ヶ月後など)」の時点で既に障害状態だった場合、その時点まで遡って受給権が確定します。しかし、実際に支払われるのは「請求日(受理日)から直近5年分」が限度です。

ケース認定日からの経過支給される期間
ケースA3年前に認定日認定日の翌月分から全額支給
ケースB8年前に認定日直近5年分のみ支給(3年分は消滅)

*請求書の提出が1ヶ月遅れるごとに、5年前の1ヶ月分の年金が時効で消えていきます。障害基礎年金2級でも月額約6.8万円、厚生年金が加わればさらに大きな損失となります。

3. 時効の起算日と計算のルール

実務上、時効は「支払期月の翌月1日」からカウントされます。

  • 例:2019年4月に支払われるべき年金(2・3月分)
    • 起算日:2019年5月1日
    • 時効完成:2024年4月30日(5年経過)
    • 2024年5月1日以降に請求すると、この分は受け取れません。

申請時には、年金機構から届く「年金決定通知書」に「時効によりお支払いできません」という文言が記載され、これをもって国が時効を援用したことになります。

4. 時効をめぐる「カルテの壁」

時効による金銭的損失以外に、社労士として最も危惧するのが「証拠資料(カルテ)の消失」です。

  • 医師法によるカルテ保存義務: 完結の日から5年間
  • 遡及請求をするためには、5年以上前の「障害認定日」時点の診断書が必要です。しかし、時効にかかるほど時間が経過していると、病院にカルテが残っておらず、遡及請求自体が不可能(事後重症のみ)になるリスクが極めて高くなります。

5. 特例:時効が適用されないケース

極めて限定的ですが、5年を超えて支払われる例外もあります。

  • 年金時効特例法
  • 国のミス(年金記録の漏れや訂正など)によって受給が遅れた場合に限り、5年の時効を撤廃して全額支払う制度です。ただし、「本人が申請を忘れていた」「制度を知らなかった」という理由は対象外です。

まとめ:社労士からのアドバイス

障害年金の時効は、知っているか知らないかで受取額に数百万円の差が出ます。

  1. 「遡れる」からといって安心しない: 5年を超えた分は確実に切り捨てられます。
  2. 1日でも早く「裁定請求書」を提出する: 添付書類が揃わなくても、まず請求書を受理させることで時効を止める(正確には受給権を確定させる)戦略が必要な場合もあります。
  3. カルテ確認を急ぐ: 5年以上前の請求を検討しているなら、まずは医療機関にデータの有無を確認してください。

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