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病気やケガで働けなくなった際、生活を支える重要な制度が健康保険の「傷病手当金」です。しかし、退職後の生活を考える上で、雇用保険の「失業給付(基本手当)」や、長期的な支援となる「障害年金」とどのように調整されるのか、複雑で分かりにくいと感じる方が少なくありません。
ここでは、傷病手当金を軸に、他の公的給付との関係や調整の仕組みを専門家の視点から詳しく解説します。
傷病手当金は、以下の4つの条件をすべて満たした場合に、健康保険から最長1年6ヶ月間支給される給付です。
支給額の目安 (1日あたり): 支給開始日以前の直近12ヶ月間の標準報酬月額を平均した額を30で割った額の3分の2
この二つの給付の調整は、制度の目的が根本的に異なるため、同時受給は絶対にできません。
労務不能と就労可能は相反するため、同じ期間に両方を受け取ることは不可能です。
退職時に病気やケガで働けない状態が続く場合、失業給付の受給期間(原則として離職日の翌日から1年間)の期限が過ぎてしまうリスクがあります。この問題を回避するために行うのが「受給期間延長」の手続きです。
| 手続き | 詳細 | ポイント |
| 受給期間延長 | 働けない状態が30日以上続いた場合、ハローワークで申請する。 | 最長で3年間延長できるため、傷病手当金の受給期間(1年6ヶ月)が終わった後も失業給付の権利を残せる。 |
*傷病が原因で自己都合退職した場合、傷病手当金受給後に失業給付に切り替える際、ハローワークで「特定理由離職者」と認められやすくなります。これにより、通常の自己都合退職にある2~3ヶ月の給付制限が免除され、スムーズに失業給付を受け取ることが可能です。
*特定理由離職者とは、やむを得ない正当な理由により自己都合退職したとハローワークに認められた人です。
簡単に言えば、「本当は働きたかったが、どうしようもない事情で会社を辞めざるを得なかった人」を指します。
*特定理由離職者は、通常の自己都合退職者(2〜3ヶ月間)と異なり、給付制限期間がありません(7日間の待期期間後、すぐに失業給付が始まります)。
傷病手当金と障害年金は、支給の目的は似ていますが、同一の傷病について受給期間が重複した場合、原則として調整(減額)が行われます。
同一の病気やケガを原因として傷病手当金と障害年金を同時に受給できる場合、障害年金が全額支給され、傷病手当金が減額(または不支給)される仕組みです。
| 比較対象 | 詳細な調整方法 |
| 傷病手当金と障害厚生年金 | 【日額で比較】 障害厚生年金の日額(基礎年金がある場合は合算)が傷病手当金の日額より低い場合、その差額のみ傷病手当金として支給される。 |
| 傷病手当金と障害基礎年金 | 併給調整の対象外となるため、両方を全額受給できる。 |
ポイント: 障害年金が障害基礎年金のみ(国民年金のみ加入期間中に初診日があった場合など)であれば、傷病手当金との調整は行われないため、両方を満額受け取れます。
障害年金は、遡って(過去にさかのぼって)受給が認められる遡及請求ができる場合があります。
傷病手当金(最長1年6ヶ月)の給付が終了した後、生活の空白期間を作らないためには、傷病手当金を受給している間に障害年金の申請準備を進めることが鉄則です。
傷病手当金、失業給付、障害年金は、それぞれ「働けない期間」「求職活動期間」「長期的な障害期間」を支えるために設計されています。
これらの制度は複雑ですが、それぞれの「支給要件」と「調整の仕組み」を理解し、適切なタイミングで手続きを行うことが、経済的な不安を最小限に抑える鍵となります。